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気晴らし細論

パンケーキとコーヒーとおしゃべり。君と僕と建築 『コロンバス』


どうも、こんにちは。

2021年最初に取り上げる作品はずっと観たかったやつ! DVD出てやっと観れた!



コロンバス(2017)

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モダニズム建築の街として知られるアメリカ・インディアナ州のコロンバス。講演ツアー中に倒れ意識不明の建築学者の父を見舞うため韓国からやってきたジン(ジョン・チョー)は、地元の図書館で働く若い女性ケイシー(ヘイリー・ルー・リチャードソン)と出会います。父親との確執から、自分の仕事を差し置いてまでコロンバスに留まることに疑問を抱くジンと、建築の勉強をしたいと思いながらも薬物依存症の母を置いて街を離れる決心がつかないケイシー。二人はコロンバスの様々な建築物を巡り、互いの胸の内を少しずつ吐露していきます。



本作は建築物を軸に進み、BGMが生活音中心だったり、静かで起伏の少ない穏やかな映画なので眠気を誘う危険性も大です。しかしストーリーの本質は普遍的な親子の話です。大げさでなく、感情移入できて、わかりやすい。個人的には『ショートターム』(2013)のような、引き算の上手な映画だと思いました。参考資料→多くを語らない引き算の勝利 『ショート・ターム』

ジンもケイシーも親について話す時は口が重いのですが、人に容易に話せないのはつまりそれだけ胸の内に抱いてるものが複雑で重い証拠じゃないですか。例えばジンとお父さんの間に過去何があったのか、具体的なことは最後まで明かされません。それでもジンの言動を見れば確執の根の深さは想像がつきます。ジンは韓国系アメリカ人とのことなので、おそらくアメリカで生まれ育ち、大人になってから韓国へ移り住んでいます。親から離れて海外で暮らし、連絡もほとんど取っておらず、父の入院の知らせを受けて帰ってきたけど早く韓国に戻りたがっている。

韓国では親の臨終に立ち会わないと親の魂が成仏せず亡霊になってしまうという言い伝えがある、とジンがケイシーに話す場面があります。アメリカで生まれ育ってるからなのか、ジンはその考えがあまり身近でないというか納得できてないようですが、父親を見捨てて韓国へ帰ろうものなら周りから白い目で見られるのは理解していて、世間の慣習と自分の気持ちの間で葛藤しているのがうかがえます。

また、ケイシーのお母さんの薬物依存についてもケイシーが言葉少なに語るだけで終わります。ジンが尋ねるんだけどケイシーは明らかに話したくないのが態度に出ています。しぶしぶ質問に答えるうちに苦しくて涙が出てきちゃう感じがめちゃめちゃ自然で、ケイシー役のヘイリー・ルー・リチャードソンの演技が抜群にいい。ケイシーとお母さんが一緒にいる場面は序盤からたびたびあるのですが、薬物依存については中盤まで一切語られないので普通に仲のいい親子に見えます。

この、一見まるで問題のなさそうな親子っていうのが絶妙なんだよね。お母さんは立ち直って元気に生活してるけど、いつそれが崩れるかわからないからケイシーは自分の夢を追うことができないし、少し見方を変えると、お母さんとの関係が良好だからこそ再発させたくなくて離れられないとも言える。ジレンマというか、薄氷の上に乗ってる緊張感というか。もし親子関係が悪かったらケイシーも自分のことを優先するでしょう。つらいな。

そしてすごく人間的でリアリティがあると思ったのは、人の感情の多面性というか、何事も簡単に白黒つけられない曖昧な部分を描写しているところです。ジンは建築には興味がないと言いながら、コロンバス滞在中に父親の私物である建築関係の本を読んでいたり、憎んではいても少なからず影響を受けています。また、父親の助手(教え子?)であるエレノアとの関係にしてもそう。かつてエレノアに好意を抱いていたジンはコロンバスで彼女に再会し、少し気持ちが揺らぎます。ジンは独身っぽいですが、エレノアは既婚者。大抵のドラマや映画はそのまま不倫するよな。でも本作は一味違いました。そういうところ、めっちゃ信頼できる。加えてこの一連シーンはホテルの一室にて、鏡にうつる二人をカメラが捉えてるところが秀逸。なんと憎い演出。おしゃれすぎる。

本作のメインであるジンとケイシーの関係もね、親戚でも恋人でも上司部下の関係でもない年の離れた異性って存在がまず稀有で貴重ですよね。尊い。あまり近くなくて、だけど建築という共通項があって、適度な距離感だからこそ二人は互いのことが話せた。建築が人を癒す、というようなセリフが登場するのですが、二人がコロンバスの建築物を巡る時間はまさにカウンセリングのようで、生まれ持った文化も家庭環境も自分の置かれた現状も何もかも違うのにどこか共鳴し合っている。建物の前でパンケーキみたいなもの食べてるシーンとか超エモかった。『リアリティ・バイツ』(1994)の「タバコとコーヒーとおしゃべり。君と僕と5ドル」風味でよかった。恋人じゃないけど好意はある、みたいな人と朝ごはんを食べるの、ちょっと憧れるんだよな。



最後に。ケイシーが二番目に好きな建築物を訪問する場面、初めて見た時に感動したから好きなのだそうですが、その肝心の感動した理由を話すところは無音になります。まだまだ浅い私の脳みそでは推察もできず、えー! 教えてよー! となったのですけれども、こういうのがあるから何度も観て解明しようと思うんだよね。この映画はやっぱり演出が憎いわ。先ほど登場人物たちの関係性の話をしましたが、ケイシーと図書館の同僚ゲイブの関係も付かず離れずで絶妙でさ、憎いわ。

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