ダンシャラーズハイは危ない 『365日のシンプルライフ』
どうも、こんにちは。
本日は、おうち時間の長い今の時期に観る人が増えているのではないかと思われるこちらの作品をご紹介します。
365日のシンプルライフ(2013)

フィンランドの首都ヘルシンキに住む26歳のペトリは、都会っ子で多趣味。最新の電子機器、楽器、釣り具、おしゃれな家電、車などたくさんのモノを持っています。しかしふと自分の部屋を見渡して、モノに埋もれて暮らすことに危機感を覚え、ある実験を始めます。自分の持ち物を一旦すべて倉庫に預け、1日に1個だけ取り出せるというルールで1年間過ごし、その間、新しいものは買わない。ペトリ自身が監督を務めたドキュメンタリー作品です。
簡単に言うと、いらないものを捨てていくのではなく、必要なものから順番に獲得していくスタイルの断捨離。必然的に優先度の低いものは自分の家に持ち込めなくなる究極の断捨離。
監督兼主演のペトリがやるときはとことんやるタイプの人間なんだなっていうのが開始直後にわかります。なにせ自分の持ち物をすべて倉庫に預けてから1日目がスタート。服も例外ではありません。つまり全裸でのスタート。真夜中、住んでるアパートの近くに捨ててある新聞紙を拾って局部を隠し、倉庫まで猛ダッシュします。実験を開始したのはまだ雪の残る時期なので(フィンランドだから4月頃っすかね)、まず選んだのはロングコート。とりあえずこれで新聞紙は捨てられるし警察に逮捕される心配もなくなる。
そんなわけで、コート、靴、ブランケット、ズボン、シャツ、ネックウォーマー、ベッドマットレスというように、最初の一週間はとにかく凍え死なないよう、そして変質者にならないよう身につけるものを優先して倉庫から取り出してきます。実験を始める前、最初の方に必要になるものは何だろう? という話をしている場面で、ペトリの幼馴染が「絶対にブランケットだ」と自信たっぷりに言い出すところがありました。
「寝袋になるしスカートにもなるし、(シャワーを浴びたら)体を拭いたあとも干しておけばすぐに乾く。丸めれば枕にもなるぞ。カーテンにもなる」と、お前このイカれた実験やったことあんの? という素晴らしいプレゼンをしてきて、ペトリもそのプレゼンに一理あると感じたのか、3日目にブランケット(厳密に言うとタオルケットのような感じのもの)をチョイス。しばらくブランケット依存生活をするわけですが、そのブランケット、生活が整ってきたら私は二度と使いたくないね。だってしばらく洗い替えができてないから絶対汚いでしょ。
さて、7日目にマットレスを持ち帰って約1週間ぶりに快適な眠りを得ると、翌朝には「毎日1個ずつモノを取り出していくたびに幸福度がどんどん増していく。もし毎日がそんなことになったら今年1年は祭りだな」なんて、ドキュメンタリーらしく真理をついたええことを言った矢先、ペトリは突如としてもう何もいらないゾーンに突入。
自宅には家電や家具の類がひとつもなく、自分は下着も靴下も履いてない状態で、かろうじて人としての尊厳を保てる程度のアイテムしか揃ってないにもかかわらず、「生活には7個で充分。何もいらない。何もほしくない」と、ダンシャラーズハイで加減がバカになっています。本人も「まるで反抗期の子供みたいだな。モノに反抗している」と認めているのだけど、なんかすげえわかるよ、その気持ち。ちょっと意地になっちゃうというか、この実験に入り込みすぎて、1日1個取り出す必要なくね? 365個もいらなくね? という、実験の大前提を覆す境地に入ってしまう感じ。ほら、ペトリって、やるときはとことんやるタイプだから(友達か)。
でもこの実験の目的は発展した文明や技術に逆らうことではないし、必要最低限のものだけで暮らすミニマリストになりたいわけでもない。モノに埋もれて見失った「自分にとって大切なものは何か」を見極めるための試みなので、10日間ほどダンシャラーズハイ期間を経たのち、根本の目的を思い出して10日分のアイテムをまとめて倉庫に取りに行きます。
ちょっと脱線しますが、この場面を見てたら、私の友人が引っ越しの時の片付けでいらないものを捨ててたら全部いらないように思えてきて片っ端からゴミ袋に突っ込み、朝方になって引っ越しに必要な書類がないことに気づいてゴミ袋を漁った。あれは危なかった。と言ってたのを思い出しました。
話を戻します。
一見、ペトリがひとりで勝手にやってるように見えるこの試みは、周りの人の助けなしではできないのが重要なポイントです。基本的に倉庫には何日か分をまとめて取りに行くので、そのたびに弟や友達を呼んでるし、1年間新しいものを買えないから何か壊れたら修理屋やってる友達に電話する。スマホも倉庫に置いてきちゃってるので、スマホがないと連絡の取れない人とは必然的に疎遠になって、近所に住んでる友達や身内とのつながりが強固になっていくんですね。こんなことやるなんてお前頭おかしいぞ、と言いながら笑って付き合ってくれる人とだけ付き合いが続いていく。
モノの断捨離が奇しくも人間関係にまで影響してくるわけですが、劇中にはペトリのおばあちゃんがキーパーソンとして登場します。ペトリがおばあちゃん子というのもあって、この人がいろいろ大切なことを教えてくれるすばらしいおばあちゃんでね。おばあちゃんの知恵袋ってあるけどさ、どこの国でもおばあちゃんって安心感と助言を与えてくれる存在なんですね。ほら、ステラおばさんとか、クレアおばさんとかいるじゃん。ちなみに、クレアおばさんの子供たちはもうすっかり大人になって巣立っていき、村の子供たちを我が子のようにかわいがっているという裏設定があるので、年齢的にはほとんどクレアおばあさんですので。
あとは、久しぶりに会ったお母さんが口髭だけ生やしてる息子(ペトリ)を見て笑い出して、「似合わないから早く剃ったほうがいいわよ」って言いながらペトリの顔を見るたびにずっと爆笑してるのとか、ドキュメンタリーのリアルさがあって妙に好きでした。
彼女の家の冷蔵庫が壊れた時は、普通に新しいの買ってやれよって思った。
最新コメント