いとしのエリーが存在しない世界線 『イエスタデイ』
どうも、こんにちは。
本日ご紹介する作品は普段行かない映画館で観たのですが、サービスデーだと思い込んで行ったら曜日を間違えていてきっちり定価を払うことになるという間抜けっぷりを晒しました。というわけでドケチの私が数年ぶりに定価で
イエスタデイ(2019)

イギリスの小さな町に住むジャック(ヒメーシュ・パテル)は売れないシンガーソングライター。鳴かず飛ばずの状態が続くある日、世界的な規模の大停電が起き、ジャックは交通事故に遭ってしまいます。それでも前歯が折れる以外は後遺症もなく無事に目を覚ましたジャックでしたが、なんと周りは史上最も有名なバンド "ザ・ビートルズ" が存在しない世界になっていました。
退院祝いに集まってくれた友人たちの前で何の気なしにビートルズの曲を歌ったところ絶賛され「そんなのいつ作ってたのよ」なんて言われ、いやいや何とぼけてんだよビートルズの曲じゃんか、と答えるジャック。
「ビートルズって何?」「マイナーなバンドを世の中の誰もが知ってると思うのは間違いだぞ」「これだから音楽やってるやつは困るぜ」
意味不明の怪奇現象に、冗談はやめろよ…(震え声)と怯え出すジャック。確かにドッキリにしては怖すぎる。その後も友人たちの反応がガチすぎてこれは単なる悪ふざけではないと察したジャックは自宅に帰ってパソコンを開き、「The Beatles」と検索をかけます。画面に埋め尽くされるカブトムシの画像。ジーザス。試しに「Oasis」と検索すると、画面に埋め尽くされる砂漠の画像。じゃあこれならどうだ、と「The Rolling Stones」と検索する。ちゃんと出てくるバンドの宣材写真。ローリング・ストーンズは、存在する。
ビートルズと、その楽曲と、彼らに影響されてこの世に生まれたもの(例:オアシス)はどうやら存在しないらしいことにジャックは気づきます。自分以外の誰もビートルズを知らないということは、ビートルズの曲を歌えば、おれ有名になれるんじゃね? という邪心100%で曲制作に乗り出します。ジャックにとって曲制作とは、ビートルズの曲を記憶だけを頼りにコード進行も歌詞もすべてを書き出して再現する作業。ジャックは熱烈なビートルズのファンというわけではないのでほとんどの曲がうろ覚え。とにかく記憶を呼び起こす。精神統一。
そうしてビートルズの数々の名曲のおかげで天才シンガーソングライターとして瞬く間に売れっ子となったジャックは、世界中の都市を回るツアーを成功させ、地元での凱旋ライブにやってきます。楽屋には様々な人が訪れ、その中には幼馴染みのエリー(リリー・ジェームズ)もいました。
エリーはジャックがまだ売れていない時期にずっと夢を応援し続け、マネージャー兼運転手として献身的に支えてくれるよき理解者でした。しかもお互いに子供の頃から好意を持っていたものの言い出せずに長い年月が過ぎ、ジャックがメジャーデビューのためにアメリカへ渡ってから、エリーはついに自分の気持ちにけりをつけます。彼氏を作り、エリーはその彼氏と一緒に凱旋ライブに来ていたのです。
人払いをした楽屋でエリーとジャック二人きり。あまり浮かない顔で彼氏ができたと報告するエリーを、ジャックは見つめています。何してんだジャック。黙って見てるんじゃない。
いとしのエリーを、歌えぇぇぇ!!!!!!!!!!
今歌わなくてどうすんの? というか、なぜ歌わない? あれ、もしかしてビートルズが存在しない世界なら、サザンも存在しない? 真夏の果実も希望の轍もTSUNAMIも存在しない世界線? そういう感じなの?
先ほど申し上げた通り、オアシスというバンドが存在しないようにビートルズに影響を受けたバンドや歌手はもれなく存在しないとなると、日本の音楽シーンでも少なくともチューリップ、奥田民生、ユニコーン、PUFFY、斉藤和義、ミスチル、RADWIMPSなどは存在しないであろう、と『イエスタデイ』を観た多くの映画評論家が言っています。
となるとサザンオールスターズは果たしてどうなのか。生き残るか否か。私は言うてサザンあんまり詳しくないのでビートルズに影響を受けてるかどうか判断がつかないんですけれども、今現在音楽やってる人は多かれ少なかれ全員ビートルズの影響受けてるでしょ。だからたぶんサザンもいないわ。そうなんだわ。いとしのエリーもないんだわ。
と、なんかもっともらしく言いましたが、みなさんお気づきになりましたか。たとえサザンが生き残ってる世界だとしても、今のイギリスの若者がサザンを知ってんのかっていう話です。正直ちょっとエリック・クラプトンの「いとしのレイラ」と混同してしまった自分がいまして、私はそんな当たり前のことに気づくのに少々時間を要しました。
まあでもどう考えてもいとしのエリーを歌うべきシーンだったよあれは。去っていこうとするエリーを繋ぎ止めるのにこれ以上の曲はないでしょ。笑ってもっとベイベー、エリーマイラブ、ソースウィート。
最後に、誰でも言える偏差値12くらいのこと言いますけど、ビートルズってマジで偉大だなって思いました。名曲に次ぐ名曲。ビートルズのレコードもCDも持ってなくて、ほとんどテレビを通してしかビートルズの楽曲を聞いたことがない私でさえ知ってる曲がいっぱいありました。本作のラストはうまくまとまりすぎですが、子供たちが「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」を歌う光景以上にこの世で穏やかなものってある? って感じなのでそれでもう全部ちゃらです。
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