「わかる」ってつぶやきながら観た 『きみの鳥はうたえる』
どうも、こんにちは。
この映画いいよ〜という風の噂を聞いていたので、どんなもんやねん、お手並み拝見してやろう、と意気込んで観てみましたが、なるほどよかったです。
きみの鳥はうたえる(2018)

函館郊外に暮らす主人公(柄本佑)は、ひょんなことからバイト先の書店の同僚・佐知子(石橋静河)と距離を縮めます。そこに主人公の友人であり同居人でもある静雄(染谷将太)も加わり、三人で毎夜のように飲んで遊んで、共に過ごす時間が増えるにしたがって三人の関係は少しずつ変化していきます。
本作の主人公「僕」はバイトを無断欠勤したり、万引き犯をそうとわかっていて見逃したり、約束を簡単に破ったり、かなり責任感のない奴です。佐知子にも、バイト先の店長にも「誠実じゃない」と言われています。一方で、同居してる友人・静雄のお母さんには「いい子だね」とか言われたりもしてるんですね。悪い奴じゃないんだけど、大人としてはだらしない。そんな感じ。
責任感を持って働く真っ当な大人からすれば、主人公に共感する部分は全くないでしょう。むしろ腹が立つくらいだと思います。私もさすがに無断欠勤は無いだろ、と思いました。でもこういう作品のずるいところは、冒頭に主人公のクズ行動が連続していくつかあって、徐々にまともな面も見えてくるという描き方をするところ。あれ? 意外とやばい奴でもないのかもしれない、って錯覚してきちゃう。
またその塩梅が絶妙というか、実際にいるんですよ、こういう奴。友人としては普通にいい奴で、別に頭も悪くなくて、きっと仕事だってやろうと思えばちゃんとできるだろうに、どこかだらしない。約束や時間が守れなかったりする。本作風に言えば、誠実じゃない。
私の周りにも何人かいます。友達の家に集まって朝までゲームして、次の日それぞれ大学の授業やバイトがあるのに行かなかった、バイトはその無断欠勤のあと一度も顔を出さずに辞めた(いわゆるバックレですな)なんて話をわりと最近聞きました。その時は、こいつらクズだな信じられん、と思ったんですけど、でも主人公たちがやってることとほぼ同じだし、なんなら主人公のほうが無断欠勤した後にもちゃんと出勤してるからまだマシかもしれない。
本作は大人の青春なんて言われたりしていますが、個人的な総評。
リアルすぎて見てられんくらいリアルだ。
作中の三人の言動は、私が友人から聞いた話、あるいは自分自身が身に覚えのあることで構成されてるんじゃないかっていうくらい身近でした。宅飲み中のぐだぐだした会話、翌朝のぼんやり感、カラオケ、ダーツ、ビリヤード、卓球、クラブなどではしゃぐ姿(この手のやつでありがちなバッティングセンターがなかったのもまたリアル)、よれよれの服。三人はシャツをよく着てるんですけど、私もシャツ好きだし、大学時代の先輩同期後輩みんなよくシャツ着てたし、静雄の大きめTシャツに短パンスタイルも見覚えがありまくりだった。そういう奴いた。
異性でも過剰に気を使わない感じも、わかる。一応、主人公と佐知子がまず友達以上恋人未満みたいな関係になって、そこに静雄が加わるって感じなのですが、佐知子と静雄も肩を組んだり、静雄が佐知子の前をパンイチで歩いたり、それを三人ともさほど気にしてない。佐知子がビッチにならない、三人の関係がフランス映画みたいにならない絶妙の距離感。
それから、印象的だった会話が一つあります。静雄は失業中なのですが、お母さんの持病が悪化して入院しているという知らせを受けたあと「働きもせずに毎日こんな風に飲んで遊んで、バチが当たったのかもね」というようなことつぶやきます。それに対して「そんなこと考えなくていいよ。遊んだり飲んだりして何が悪いの?」と答える佐知子。
わかる。
私自身ニート生活してた時期があったし、わりと今もそんな感じだし、静雄と佐知子どちらの考えもわかります。こんな風に楽しい生活してていいのかなと思う一方で、別に自分で稼いだ金で遊んでる分にはいいでしょ、と開き直る自分もいる。
他の国の考え方は知らないけど、日本人には、厳しい状況にいないと堕落する、つらい思いをしないとダメ、みたいな感覚がある気がします。「仕事=大変なもの」で、大変じゃなければ仕事じゃない、みたいな。それこそ上の世代が言う「俺たちが若い頃は残業なんて当たり前だった」「若いうちに無理して働かなきゃ」みたいなやつも、結局は楽して働くことへの罪悪感なんじゃないか。きっと私のように「わかる〜〜〜〜〜」って思ってる人が多いから、この作品が評価されてるんだろうな。
さて、本作の舞台は函館ですが、原作では東京の国立が舞台らしく、ますますリアルである。原作者が函館出身の佐藤泰志ということで、だから函館ね、とすんなり納得していたのにまさかでした。佐藤泰志は國學院大卒だそうです。映画版で舞台が函館になってるのは、函館の映画館から映像化の話が持ち上がったこととか、監督も北海道出身だからとか、そういう理由のようです。
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